死んだ人間の悪口は言ったらあかん。

投稿者:さーや (1982年生まれ/女性/兵庫県在住)

父は私たちが小さい頃から自分勝手でわがままなところがありました。
普段は温厚で家族想いで、仕事もまじめにがんばる人でしたが、感情の起伏が激しく、体も大きかったため、特に怒らせたときは手がつけられない人でした。
ごくたまにですが、感情的になっては家族に八つ当たりしたり、自分の言い分を押し付けるようなところも少しあり、家族の中ではトラブルメーカーというか、怒らせるとめんどくさいなという存在でした。

私は長女だったこともあり、生まれた頃から溺愛されていたのですが、末っ子の妹も平等に心配や愛情もかけてもらっていました。
しかし、妹は長女と末っ子との差のようなものを感じていたようでした。
思春期になり、妹が友達との悪ノリで人をからかったり危険なことをしたと父の耳に少しでも入ろうものなら、すぐにでも鉄拳制裁でした。
父は妹に愛情を持っていたからこそ厳しく育てていたのですが、鉄拳制裁と怒鳴り散らす荒いやり方なので伝わりにくい表現でした。
私はどちらかと言えば内向的で目立たずおとなしい方だったので父の目にとまることもなかったため、余計に妹の中では父に対して不信感のようなものを募らせ、家の中でも父と話したり顔を合わせるのを避け始めていました。

そんな父が、ある日突然職場で倒れ、そのまま亡くなりました。
脳内出血でした。
数年経ち、悲しみも落ち着いてきたころ、お酒も入って思い出話になった時に、本当に父には苦労したという話になりました。
めちゃくちゃな自己理論や、気性の荒さですぐに手を挙げ、壊された家具や夜中に割られた食器、それをなだめる母、離婚騒ぎになる度にハラハラと不安な日々を過ごした私たち…そんな話をしていました。

お酒も入っていたこともあり、いつのまにか「てか、あんな自己中な人、見たことないね」「暴力的で大声で怒鳴ってまるで脅しだったし!」となんとなく父の悪いところを列挙しているような雰囲気になっていました。
そのとき、それまで黙って聞いていた妹が突然、「あのさぁ」と口を開きました。
「こんな事があったっていう出来事は思い出話として聞くけど、悪口になってきてない?それならもうこの話は終わりにしよう」

かつては一番父を嫌い、避けていた妹の発言に全員がびっくりしていると、妹は「人にはあの時どういう真意や感情で、そういう行動に出たのか必ず言い分があるはずやん。生きている人間にはそのタイミングがくるけど、死んだ人にはそのチャンスはこないから、言い訳ができひんのよ。」と。
「もう死んだ人間の悪口は言ったらあかん。」

父を嫌っていた妹には、ちゃんと父の愛情は伝わっていたのでしょうか。
こんな風に言えるように育ったのなら、父も嬉しいだろうなと思いました。
それ以来、父のめちゃくちゃな思い出の話はしても、できるだけ笑い話にして楽しい思い出を話すため、父の命日、誕生日、お盆や年末年始には日にちを合わせて家族で実家に集まっては食事をしています。

error: