先生はピアノの先生として成功したんだよ

投稿者:C (1966年生まれ/女性/大阪府在住)

短大在学中から、ピアノの講師をしていました。
中学生の時から憧れていた職業です。

短大を卒業してからは企業の音楽教室と自宅での講師のかけもちをしていました。
しかし、同僚の先生たちの様に募集をかけなくても生徒が集まるわけでもなし、短大の同級生の様にたくさんの生徒に囲まれて順風満帆とは程遠い先生でした。
音楽教室は1つしかお仕事がもらえず、生徒の数は4人だけ。家の生徒は2人だけ。
先生だけではお金にならないので、アルバイトも行ってました。

そんな日々が4年ほどたち、ある生徒がやって来ました。
その女の子は「今度高校を卒業てお仕事をするから、ピアノを習いたい」と言いました。
話を聞くと、お父さまは早くに事故死なされ、お母さま一人に育ててもらったのだが、ピアノを習うのは贅沢だと思い言い出せなかった、仕事をすれば自分のお金が出来るので、そのお金でピアノを習いたい、と。
見た目は金髪頭に我慢焼のある左手。
どう見ても「ヤンキー」でした。
18歳の未成年だったので、「お母さまが習ってもいいと言うなら教えます」と言うと彼女は次の日、またやってきて「おかあさん、良いって!先生、お願いします」と満面の笑顔で報告してくれました。
断る理由がありません。
彼女は私の生徒になりました。

3年後、彼女は自分の人生に疑問を持ち、私に相談してきました。
私は実力的に問題は無いと判断して、彼女に短大受験を勧めました。幼児教育課です。
悩んだ結果彼女は短大受験をし、見事合格。
そして2年後には幼稚園の先生として再び社会に出て行ったのです。

10年後、私は彼女とその後やはり幼稚園の先生になった女の子を食事に誘い、3人でイタリアンのレストランに行きました。
オーナーさんが「3人さんはどんなご関係ですか?」とお聞きになると、彼女は「私ともう一人の子は幼稚園の先生」と言い、そして私の方をさし「この方は私たちのピアノの先生」とニコニコと答えました。
オーナーさんは「そうですか、あなたたちは素晴らしい先生をお持ちになったのですね」と言ってくださいました。

ピアノの先生だけでは、やって行けなくてバイトをしてた私。
いまだに教え子の方が、収入は高いでしょう。
そんなことは気にはしていないのですが、彼女の屈託のない笑顔が誇らしく思います。

レストランの帰り、何かを悟ったのか、彼女は言いました。
「先生、先生はピアノの先生として成功したんだよ。だって幼稚園の先生を二人も育てたんだもん。私は先生に会っていなかったら今の私は無いと分かっている。私を成功させてくれた先生は、ピアノの先生として成功したんだよ。先生、ありがとう」と。
驚きとその言葉をゆっくりかみしめたら、涙が溢れそうになりました。

良い生徒に巡り合えて、幸せだったと思っています。

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