大学院生のあるべき姿です。

投稿者:mobius (1965年生まれ/男性/茨城県在住)

大学卒業後、私はアメリカの州立大学の大学院に留学しました。
その際、大学での成績が条件を満たしていたため学部のscholarshipを利用しました。
私の学部のscholarshipは、毎月200~300ドルのお金を頂く代わりに大学で初級レベルのクラスをひとつ受け持つ、あるいは担当教官のリサーチアシスタントをする、というものでした。
日本での奨学奨励金の様なものを想像していた私には少し驚きでした。

私はリサーチアシスタントを希望しました。
主なその仕事内容は、教官の研究及び担当するクラスで使用する書籍、文献、学術論文等を探し、必要ならばコピーをとる、というものでした。
これ等の物は概ね学部の書庫か大学の図書館で入手可能でしたが、キャンパスは広大で図書館は学部から一キロ弱の距離にあり、揃えなければならない数も一度に30アイテム程で、100を超えたこともありました。

これを自分の時間割、クラスで提出するペーパーの下調べ、研究論文の準備の合間に行うとなると、かなりハードな時がありました。
デイバックとキャリアーに書籍やコピーを乗せて小走りでキャンパス内を移動、何てことも日常茶飯事でした。
英語やアメリカでの生活自体もまだまだ不慣れで、今の自分の能力では無理なのかな、と感じていました。

一ヶ月ほどそんな日々が続き、いつもの様に図書館からの帰り、学部のビルのエレベーターの中で、学部長と二人だけになりました。
学部長は、額にうっすら汗する私の顔を見ながら、「どんな調子ですか?」と聞かれるので、私は背中とキャリアーの荷物を示しながら、「大変です、走りまわっています。」と答えました。
すると彼は満面の笑みを浮かべて、「大学院生のあるべき姿です。」と事も無げに言われました。

たったそれだけの会話でしたが、彼の表情と併せて、私は気持ちがすっと軽くなった気がしました。
自分の能力不足で大変なのではなく、大学院で勉強をすること自体がそもそも大変なことなのだ、今の環境にいる自分は大変な思いをして当たり前なのだ、と認識を変えるきっかけになりました。

その後の人生で苦しくつらい時に、ふとこの時の会話を思い出すと、視野を広げたり、視点を変えたりする事で、物事は好転することがあると教えてくれます。

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