帰ってくる家はあるさ

投稿者:セメダイン (1975年生まれ/男性/青森県在住)

20代後半の頃、私は仕事を辞めるかどうか悩んでいました。
学生時代から続けていた音楽活動一本で生活していきたいと考えていたからです。
仕事の合間にデモテープを作ってレコード会社に送るといった活動をしており、少しずつ声をかけて頂くことも多くなっていました。

しかし、安定した職を失うことにはやはり抵抗があるものです。
私が勤めていた会社は比較的大きな組織で、そこで働いていれば安定した生活が送れることは間違いなかったと思います。
ですが、私はミュージシャンになりたいという大きな夢を抱いていましたし、それは安定した暮らしよりも私が求めているものでした。

仕事を辞めることを決めた私は、家族にはきちんと報告したいと考えていました。
ただ、いきなり両親に伝えると猛反対されるだろうと思っていたので、3歳年上の兄にまずは話をすることにしたのです。
当時私は都内で一人暮らしをしていたのですが、ちょうど兄が出張で上京してきた際に、この話を打ち明けることにしました。

居酒屋でお酒を飲みながら、しばらくは全く関係のない話をしていたのですが、兄が「そういえば、話があるって言ってたけど何?」と言ってきました。
私は「実は、仕事を辞めて音楽活動に専念しようと思っていて、仕事は辞めるつもりだ。」と思いのままに伝えました。
兄は堅実に生きている人間だったので、反対されることも覚悟していました。
しかし返ってきた言葉は、「挑戦するということはとても勇気がいることだから、良く決断したな!」という予想外の励まし。
そして、「帰ってくる家はあるさ。だから、思う存分やったらいいよ。」とまで言ってくれたのです。

何よりも嬉しかったのは、「結果として上手くいかなかったとしても、帰ってくる家はあるよ」という言葉でした。
私は夢を追いかける決断はしたものの、そのぶん失敗することも恐れていました。
しかし、その言葉のおかげで、勇気と自信をもって音楽の道に進むことができたのです。

その数ヶ月後、私は会社を退職し、音楽だけの生活に入りました。
結論から言うと、メジャーデビューなどといった華やかな結果を残すことはできませんでしたが、自分なりに納得のいく活動はできたと思っています。
今振り返ってみても、あの兄からの言葉がいつも私を支えてくれたように思います。
兄弟って良いものだなと感じたのも、この時が初めてでした。
今は兄に助けられた恩返しとして、甥っ子や姪っ子を可愛がる毎日です。

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