人間は、自分のお腹のなかに、自分用の薬箱をもっとかないといけないよ。

投稿者:tag (1965年生まれ/男性/奈良県在住)

明治生まれの祖母が亡くなって、もう10年あまりが経ちます。
後妻として嫁いできて、先妻の子供と自分の子供(どちらも男の子)を育てあげましたが、そのうち「自分の子供」が私の父です。
その私はと言うと、父の厳格な態度で育てられたのにもかかわらす、さみしがりやで小さいころから気が弱くそのくせわがままで忍耐力にかける子供でした。
いつも近所の子供に泣かされて帰ってきたりするたびに、その子の家へどなりこんだり私を抱きしめてくれたりしてくれていたのが祖母です。

そんな私も何とか成長し、普通に高校、大学と進学し、地方の役所勤めをすることになりました。
そして、結婚、父親に。
しかし、本来の気弱で忍耐力にかけているのが災いし、仕事の面でも大きな行き詰まりをみるようになります。
家庭内でも妻との間で価値観の相違や妻の実家との揉め事等を抱えるようになります。

元来、寂しがりの私は、あろうことか職場の年下の独身女性に好意を寄せるようになり、隙を見つけては一緒に過ごすようになりました。
そして、自分に由来することとは言え公私ともどもトラブルを抱え、だんだんと消耗しきった毎日を送るようになります。

結婚して実家とはいわゆる「スープの冷めない距離」に住んでいたのですが、父が商売をしていたこともありその手伝いに実家へ帰ることは多かったのです。
祖母はと言うと、加齢によるものなのかだんだん気難しさが増し、私とゆっくり話すこともだんだん少なくなってきました。

しかし、ある時、父と母がちょっと留守にし、祖母とテレビを見ているときに、どこを見るでもなく誰に言うでもないようにこう呟きました。
「人間は、自分のお腹のなかに、自分用の薬箱をもっとかないといけないよ。」

勿論、私も聞いているのか聞いていないのかわからないようなふりをしてテレビの画面を眺めていました。
しかし、その言葉が心の中に静かに静かに浸み込んでいくのがわかり、涙がこみ上げてきそうになりました。

祖母は、気弱で忍耐力のない自分を認めて抱きしめてくれたくれた上で、そんなあなたでもいいんだから自分を癒すものを用意したおかいといけないよ、そしてそれは自分で用意ととくものだよと教えてくれたのでした。

その言葉を聞いて、約10年後に祖母は、私に看取られて旅立って行ってしまったのですが、私はと言うと、もちろん、私自信の持って生まれた性格等がすぐに変わることもなく、公私ともども周りの状況が劇的に変わることもないのですが、20年近く前に聞いた祖母の言葉を思い出して、なんとか50歳を迎えることができました。

ありがとう、おばあちゃん、これからも薬箱だけは抱えておくね。

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