やるしかない!

投稿者:chipmunk (1979年生まれ/女性/千葉県在住)

私が中学二年生の時、担任の教師は絵に描いたような熱血タイプの教師でした。
学校行事はいつも全力で取り組んでいて、体育祭は全校の誰よりも大きな声で応援していました。
毎朝校門に立ち、登校する生徒一人一人に対し、朝から信じられないほどの大きな声で挨拶の声かけをしていました。
合唱コンクールの時は、リハーサルから全力で指導するので、本番前から真剣に涙を流したりしていたのです。
いつでも全力で、必死に学校生活に取り組んでいるような教師でした。

担任教師の担当科目が理科であり、音楽とは全く関係ない授業内容にもかかわらず、たびたび持参したアコースティックギターをかき鳴らしながら、自作の歌を披露していました。
いつも歌詞の内容は「負けない」とか「努力」とか・・・そして先生の得意なおきまりの台詞「やるしかない!」です。
先生にとっては、多感な中二の学生に対する応援メッセージだったのだろうと思いますが、私たち生徒はいつも完全にしらけきっていました。

いつも必死で限界まで張り切る先生に対し、私たちが冷静に対応していたある日、突然先生が初めて見せる穏やかな表情で静かに話し出したのです。
「これまで俺が必死に伝えてきたメッセージは、おまえたちに届いているか?
きっとわかってはいても恥ずかしくて真正面から受け止められないんだろう?
わかってるけど俺はあきらめないよ。
ずっとずっと心に残るように、今からおまえたちに存分に伝えるぞ!」

何が始まるのだろうかとびっくりしてしまう生徒たちを前に、先生はかなり長い間じっと沈黙を保っていました。
そして、足を大きく踏みならしながら、
「やるしかない!やるしかない!やるしかない!やるしかない!・・・」
延々叫び続けたのです。
どれほどの時間が経ったのか私にはわかりませんでしたが、20分や30分にも感じるほど、とても長い間先生は叫び続けたのです。

あまりに熱血過ぎて、おかしくなってしまったんじゃないか。
そんな風に思う生徒ももちろんいました。
どうしたら良いかわからず立ち尽くしていた生徒、これが大半でした。
静かに語りかけた後の大きな声での「やるしかない!」の連呼。
今も強烈に覚えています。

ガラガラになった先生の声が止まったとき、先生はまた静かに最後の話を語り始めたのです。
「今はきっとわからないだろう。
でも、うまくいかないときや大人になったとき、この言葉さえあればおまえら何とかなるんだからな。」

大学入試の時、いくら勉強してもなかなか偏差値が上がらなかったとき、
「やるしかない!」
この言葉でひたすら勉強を続けました。
就職して、理不尽なことで責任をとらされて取引先に向かうとき、
「やるしかない!」
で気合いを入れました。
子どもの病気で神経がすり減りそうになったときの育児も、
「やるしかない!」
で乗り越えました。

もっとかっこいい言葉だったら、私はきっと忘れていただろうと思います。
もっと素敵なシチュエーションで言われていたら、私はきっと雰囲気に飲まれて覚えていなかったことでしょう。
暑苦しい熱血教師の狂気に満ちたシチュエーションでの、ごく当たり前の「やるしかない!」。
これこそが、最後の一歩にふみこむ勇気をくれる魔法の言葉なのです。

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