ねぇちゃんも

投稿者:りい (1982年生まれ/女性/東京都在住)

弟からもらったすごく短くて単純な言葉。
けど一生忘れることはない。

私には2つ年の離れた弟がいる。
私が小学校6年生になる頃、両親が離婚し引越しをすることになった。
母は私たち3人を育てることに必死で一生懸命働いてくれた。
弟はまだ小学校4年生だったこともあり、きっと寂しい思いをしたと思う。
もっと気にかけてやればよかったと心から思っている。
寂しさと、言葉にできない苦労が弟にもたくさんあったのだろう。
なんとか高校は卒業したものの、弟は次第に家に引きこもるようになり外に出なくなった。

私自身、高校を卒業した直後に一人暮らしをすることになり実家に帰る機会も減っていった。
気づいたときにはすでに遅く、引きこもるようになった弟とあまり会話することがなくなっていた。
なんと話かけていいかわからない、姉弟なのにそんな風に思って気を使っていた。
もう少し早く相談に乗っていれば、普通に接してあげていれば、弟はもう少し違っていたのかもしれない。
あまり口をきかない弟は、きっと私のことがうざいんだろう。
そんな風に後悔することもあった。

そんなある日、私は結婚し東京へ引っ越すことになった。
こんなときぐらいきちんと言わないと。
そう思い弟と少しだけ話をした。

お母さんのことをよろしくね、何かあったらすぐに電話していいからね、元気でいてね。
そんなありきたりな言葉をかけた最後に弟は、『ねぇちゃんも』と言ってくれた。

私のことなんて何も思っていないだろう、心配もしてないしうざいだろうなと思っていた弟からかけられた優しい言葉。
普通の兄弟であればなんてことない日常の会話かもしれない。
でも微妙な距離ができてしまい、ろくに会話をしていなかった私たちにとってお互いを思いやるこの言葉のキャッチボールは何よりもうれしい出来事だった。
お母さんともお兄ちゃんともほとんど言葉を交わさない弟が、私にはこんなやさいい言葉をかけてくれるんだと思うと涙が出た。

その言葉から1年後、私は海外で結婚式をすることになった。
身内だけの小さな結婚式は、お互いの両親に旅行をプレゼントしたいという思いからだった。
弟は来てはくれないだろうな。。。
そんな風に思っていたが、普段は外に出ようとしない弟はこの長旅に同行してくれた。
すごく嬉しかった。
その時の写真は今でも大切に飾っている。

弟はまだ仕事に就くこともなく家に引きこもっている。
相変わらずの日々だけど、私と弟は少しずつ会話をするようになってきている。
あと数年もすれば離れて暮らしてきた時間のほうが上回ってしまう。
一緒に暮らしていないと分からないことは多いけど、それでも私たちはお互いを思いやっていると思う。
私と弟はやっぱり姉弟なのだ。
きっといつかこの思い出の言葉をまた聞ける日が来ると思っている。

error: