綺麗だね( It’s so pretty )

投稿者:はるくん (1953年生まれ/女性/埼玉県在住)

アメリカ留学時代の話です。
ダンススクールで学んでいました。
ある夏の日にスタジオパフォーマンス(学生の発表会のようなもの、学校主催なのでオーディションで出演者を選ぶ)が開かれることになり、私も出演者だったので朝から忙しくしていました。

簡単な照明とかも全部出演者以外の学生のボランティアでしたので、スムースにとは中々行きませんでしたし、暑くてエアコンも無しだったので。
本番前にすでに、全員結構疲れていたのです。
楽屋として使っていたスタジオにも勿論エアコンは無く、入り口のドアを開けると入ってくる観客から丸見えになってしまうため、普段は開けていない、小さな庭に面した両開きのドアを開けて風を入れていました。
そうでもしないと、折角やった舞台化粧も汗で落ちそうだったのです。

本番前と言うのは、何度やっても緊張する物で。
何となく空気もピリピリするものです。
会話も殆どありません。
正直な所、私は緊張した場合にハイテンションになって喋りたくなるタイプなのですが、殆どの人は自分に集中してしまうので、仕方なくこちらも大人しく化粧していました。
陽気なアメリカ人も、こういった時にはかなりナーバスになるという事は知っていましたし。

と、ふと。
誰かが何かの拍子に、開けっ放しの庭に面したドアのほうを向いたのでしょうか。

「あ、何あれ?」

静かな楽屋で、その声ははっきり通ったので、全員振り向きました。
誰からとも無く、

「綺麗だね( It’s so pretty )」

声が漏れました。
それは多くの蛍だったのです。
別に池も無いのに、小さな庭に何故か群れ集っていたのです。
都会のど真ん中の、コンクリートとアスファルトで固められた街の、ほんの小さな庭なのに多くの蛍が集まっていたのです。
光が優雅に舞っていて、楽屋の緊張が解けていくのがはっきり解りました。

綺麗だね、としか言いようのない光景。
柔らかな光が、私達の緊張を和らげてくれたことは、言うまでもありませんでした。

その場にいたのは国籍・人種、本当に様々な学生です。
アメリカ人は勿論、南米からの留学生も台湾韓国の留学生も、そして私たち日本人もいました。
その一時、国籍も人種も隔てなく、蛍の飛び交う姿に「綺麗だね」の思いを同一にしたことは、今でも忘れられない思い出です。

error: