はたで見ていてどんな本が好きなのか分からない、というのが有るべき図書館員の姿です

投稿者:lucia23 (1976年生まれ/女性/東京都在住)

図書館で働いていたときに、その道数十年の先輩に言われた言葉です。

日本の出版業界では毎年、約8万点の新刊が出されます。
当然、過去に刊行された出版物も膨大な数にのぼります。
仮に図書館司書の資格を持っていたとしても、学校で学んだだけでは、それだけの資料について十分な知識を持つことは物理的に困難です。
そうはいっても図書館員の存在意義は資料知識です。
現場でいかに知識を蓄積していくかによって、図書館員の能力が大きく左右されるわけです。

では、どのように資料知識を増やし、深めるのか?その大きなヒントになったのが表題の言葉です。
先輩に何気なく、「得意分野は何ですか」と聞いたところ、表題の言葉が返ってきました。
たしかに、現場にいると雑多なまでに多様な質問を受けます。
夏休みの終盤に「何でもいいから読書感想文に使える本」が欲しいと言われたり、介護の勉強をしている学生さんに「介護するお年寄りの若い頃を知るために役立つ本」を求められる位なら普通なほうで、演劇をしている人から「悪魔祓いの場面に使う衣装の参考になる写真」を探してほしいなど、思いもかけない相談を寄せられます。
多様な質問に対応するうえで、守備範囲を広げておくことが欠かせないのです。

先輩の言葉がきっかけになって、好きな分野の本ばかり読んでいてはいけないと、意識が大きく変わりました。
図書館の本は10の分野に分かれているので、各分野の本をとにかく年に1冊ずつは読む、日本や東洋の文化に詳しくないので、そこを補える本を読む。
ちょっと歯ごたえのある本を出す出版社の本を1冊は読む…。
こうした読み方をしていくと、不得手な分野の質問が来ても、漠然と何とかなると、前向きな思いで対応できるようになりました。

けっきょく図書館の仕事は4年程度で辞めたのですが、辞めてからも「はたで見ていてどんな本が好きなのか分からない」ように読む習慣は続いたので、もともと自分の性に合った営みだったのでしょう。
おかげで周囲にいるどんな人にも、何かしらその人が興味を持てそうな本を思い浮かべられるようになりました。
先日、3年務めた仕事を辞めた際にも、同じ部署にいる16人全員に、それぞれお勧めの本情報と推薦文をお餞別に渡しし、大きなインパクトを残して職場を去ることができました。

error: