大丈夫、誰も死なないから!

投稿者:ししかわ (1978年生まれ/女性/神奈川県在住)

当時20代半ばだった私は、人生で初めて肩書きのついた仕事を任され、嬉しいながらもプレッシャーを感じる毎日でした。
仕事は、店舗での販売です。
店舗での私の上司は店長であるSさんただ一人で、Sさんがいない日は私が店舗責任者でした。

私が働いていたのは新規オープンした店で、店長のSさんも、私も、他のスタッフも全て、そのとき初めてその会社に入社した人ばかりでした。
当然、社風に合った社員ではありません。
特に店長のSさんは、古きを重んじる会社とは正反対で、破天荒な感じの人でした。

独身アラフォー女性だったSさんは、結婚せずにバリバリに働いているかと思いきや、経歴を聞くと意外とそうでもなく、どうやらご実家が裕福のようでした。
なるほどなと思いましたが、仕事はものすごくできるんです。

とにかく、ざっくばらんでした。
悪く言えばちょっと適当でした。
上司らしからぬ上司という感じでしょうか。
勿論かなり年上だったわけですが、それでも友達のようにフランクだったんです。
そのような調子でしたから、仕事自体はできるのですが上司として頼りない感じはありました。
何しろ分からないことを聞くと「私も知らないから貴女が本部に聞いて」と言われるのですから…。

そうして開店から三か月ほど経った頃、かなり大きなミスが発覚しました。
本社に平謝りしなければならないレベルのミスに、当然みんな真っ青で頭はパニックになりました。
何とかミスを無かったことにできないか…せめて怒られないように理由をつけられないか…と弁解の為に頭がフル回転しましたが、良い案も浮かばず焦るばかり。
その時、Sさんが言いました。

「落ち着け。大丈夫、誰も死なないから!」

そう言われた瞬間、少し呆気に取られました。
でも、「ミスを怒られたところでうちの店の誰かが死ぬのか?」と改めて聞かれて「それはないですね」と答えたら、何だか急に安心したんです。
あまりに極論ですが、確かにその通りなんですよね。

結局ミスはミスとして本社にひどく怒られましたが、だからといって誰かが辞めたわけでもなく事は済みました。
その一件以降、Sさんは上司として頼りになるなと思うようになりました。
別にミスを解決してくれたわけではないですが、部下を精神的に支えるというのは上司として一番大切な能力だと思います。

多分、普通の上司だったら怒っていたと思います。
あの一言はSさんの性格だからこそ出てきたんだろうなと思います。
今でも辛い状況になると、よくこの言葉を思い出して乗り切っています。

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