由梨さんがいない現場なんて、オレもう入らないですから。
投稿者:由梨 (1980年生まれ/女性/神奈川県在住)
私があるイベントに現場責任者として携わっていたとき、新しいアルバイトとして入ってきた男の子がいました。
その子は19歳で専門学校に通っていて、とても人見知り。
人生でまだ彼女ができたことがなく、引っ込み思案な子でした。
仕事をしてもなかなか要領がつかめずオロオロするばかりで、休憩中も1人でポツンとしている姿を何度となく見かけました。
ただ、長期に渡って開催されるそのイベントにアルバイトとして参加する日数は多く、おとなしいけど根性はある子なのかな、と感じていました。
そうであるなら何としてでも戦力になってもらわねば!と、私はその子とコミュニケーションを取るようにして、休憩中はたわいもない話を振ったりその子の受け答えや服装などをイジッたり、仕事が終わった後にその子も含めたアルバイト数人を飲みに誘ったり(その子は未成年だったためジュースで乾杯でしたが)新しいアルバイトの教育係を任命したり、何とかその子が他のアルバイトや私と打ち解けられるような空気をつくることにつとめました。
もちろん仕事でその子が失敗したときは厳しく注意もしましたし、ダメ出しもたくさんしました。
時には泣きながら謝るその子の姿もありました。
やりすぎたかな、と私自身が反省することもありましたが、お互い仕事に真剣に向き合ってきたことは確かです。

次第に彼はこちらが指示をしなくても先読みして仕事を率先してやるようになり、また他のアルバイトとも会話をよくするようになり、休日もアルバイト仲間と遊びに行ったりしているとの噂も聞くようになりました。
確かに毎日楽しそうな顔で仕事をしているなと感じていましたし、以前より格段に動きが早くなり本当に頼りになる存在へと成長していきました。
私はこのイベントが終了しても、次に迫っている他の案件や来年度のイベントにもこの子を絶対召集して、リーダーとして仕事をしてもらおうと思いました。
何度か私が責任者を務めるイベントにリーダーとして参加してもらった後、会社の意向で部署が異動になり、私の後輩が私の現場を引き継ぐことになりました。
この後輩も、私の現場には何度か帯同していたので、もちろんこのアルバイトの子とも顔なじみです。
異動の件と、引き継いだ後1発目の後輩主導のイベントにリーダーとして参加してもらうために彼にアポイントを取ろうと連絡をしたときに言われた言葉がこれです。
「由梨さんがいない現場なんて、オレもう入らないですから。」
快諾してもらえると思っていた私は慌てました。
この言葉を聞かされて、嬉しいと感じたのは何日も経ってからです。
思いもよらない言葉でした。
「由梨さんがオレを信頼して呼んでくれてたんでしょ。他の人じゃ意味ないっす。オレだって信頼してるのは由梨さんだけですから。」
その後は電話じゃ埒があかないほど、かたくなにイベント参加を拒んだので直接会って説得しました。
今でも時々連絡を取っては当時のアルバイト仲間と一緒に飲みに行ったり思い出話をしたりする関係は続いています。
時間をかけて築き上げた信頼関係は決して一方通行ではなく、また時間が経っても色褪せないものなんだな、と。
人を理解する、理解してもらうということは難しいことだけれど、その何倍にもなっていいカタチで自分に返ってくるんだなと感じたひとことでした。